出張買取を断ったのに帰ってくれない。実際に起きることと、いま使える条文

藍澤和博買取査定の実務経験者
公開日 2026-08-03
この記事の一次体験:この記事の一次体験は2つあります。ひとつは、筆者自身が売る側として自宅前で出張査定を受けたときに、断ったあとも業者が帰らなくなった1件(約22年前・2004年頃・バイク・提示5万円から25万円まで上がったが売っていない)の記録です。日付・場所・業者名は記憶していないため書いていません。もうひとつは、筆者が2011年から2026年4月まで買取の現場で査定する側にいたあいだに、断られたあとも粘るという行動が社内でどう扱われていたか(成約率の評価のされ方、歩合の効き方、持ち帰りになった案件のその後、引き留めるときに実際に使われていた言い方)として実際に見ていたことです。特定の1社の内部規程を写したものではなく、その期間の実務のなかで繰り返し見ていたことを書いています。法律に関する記述は、特定商取引法・同施行令・消費者庁の通達・刑法の各原文を2026年8月2日から3日にかけてe-Gov法令検索で読んで確認したものだけを書いています。刑法第130条の制定当時の文言については、国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている官報第7142号(明治40年4月24日)の原本画像を確認しています。
まず、私の家の前で起きたことから
約22年前、2004年頃の話です。私はまだ買取の業界に入る前で、自分のバイクを売ろうとして出張買取を呼びました。場所は自宅の前です。
最初の提示が5万円。安いと思ったので、絶対に売らないと突っぱねました。そこから業者が帰らなくなって、本社への電話を挟むたびに金額が上がり、最終的に25万円まで出てきました。この金額の動き方のほうは出張買取でその場の即決を求められるとき、何が起きているかに書いたので、そっちを見てください。
この記事で書きたいのは、そこではないです。断ったあとも帰らなかったという部分のほうです。
最後どうなったかというと、近所に住んでいるバイクが趣味のおじさんが、何事かと出てきて横やりを入れてくれました。それでやっと帰ってくれた。自分の言葉では帰らせられなくて、他人が出てきたことで終わったんです。
つまりここで扱うのは、帰らない相手に対して何が使えるのかという一点です。
先に立場を書いておくと、私は2011年から2026年の4月まで、買取の現場で査定する側にいました。いまは査定からは引退しています。鑑定士みたいな資格は持っていないので、ここで法的な結論として書くのは、条文と通達に書いてあることだけです。
断られたあとに粘るという行動が、中でどう扱われていたか
先に、向こう側の話を短く書いておきます。私は買う側にもいたので、あの粘りが何なのかは分かっているつもりなので。
買取店は仕入れができないと1円にもならなくて、会社によっては成約率が評価基準にわりと厳しく組み込まれていて、歩合制なら自分の給与に直結します。しかも持ち帰りになった案件は、理由が相見積もりなら次の店の店員次第で戻ってこない。だから粘るんです。玄関先で背負っているのは、たぶんそれです。この構造と、実際に使われていた説得の型、1回目の提示額の決まり方は、こっちの記事にまとめてあります。
で、ここからが本題なんですけど。
その事情を引き受ける義務は、売る側には無いんですよね。 向こうの評価制度も歩合も、こっちには関係のない話です。あの頃の私はそれが分からなくて、なんとなく申し訳ないような気持ちで25万円まで付き合ってしまった (笑)。いま思えば、付き合う必要はまったく無かった。
22年前の私に、無かったもの
ここが、この記事で一番はっきりさせておきたいところです。
いまの出張買取には、特定商取引法の「訪問購入」という章がかかります。第5章の2です。営業所以外の場所で業者が物品を買い取る取引がこれに当たるので、自宅前でバイクを査定してもらうのはまさにこれです。
ただ、この章は2004年には存在しませんでした。
訪問購入が特定商取引法に加わったのは平成24年8月22日法律第59号による改正で、施行にともなう政令・省令が出たのが平成25年2月8日です。つまり22年前の私が玄関先で立っていたとき、これから書く条文はまだ1条も無かった。
だから、あのとき業者が帰らなかったことについて、私は「当時それは違法だった」とは書けません。書けるのは、いま同じことが起きたら使えるものが増えている、ということだけです。以下、その順に書きます。
断り方の言葉で、止まる範囲が変わります
再勧誘の禁止という規定があります。特定商取引法第58条の6第3項です。
購入業者は、訪問購入に係る売買契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、当該売買契約の締結について勧誘をしてはならない。
この「勧誘をしてはならない」が、その場で勧誘を継続することも、日を改めて訪問することも、同じ会社の別の勧誘員が来ることも止めていること。「時計は売りません」と言えば持っている時計全般について断ったことになるという、品目のくくりで及ぶ話。このあたりは消費者庁の運用指針(通達の別添3)に書かれていて、原文は即決を求められる場面の記事のほうに引用してあります。22年前に私が受けたのは、このうち1つめの「その場で勧誘を継続する」ほうです。
この記事で足しておきたいのは、その先です。同じ「断る」でも、言い方で止まる範囲が変わります。 同じ指針にこう書いてあるんです。
「今は忙しいので後日にしてほしい」とだけ告げた場合は、その場その時点での拒絶にはなるけれど、日を改めて勧誘する場合の「契約を締結しない旨の意思」の表示には当たらない、と。
つまり、こういうことになります。
| 言い方 | その場の勧誘 | 後日の再訪 |
|---|---|---|
| 「売りません」「お断りします」 | 止まる | 止まる |
| 「今日は忙しいので、また今度」 | 止まる | 止められない |
角を立てたくないので「今日はちょっと」と言ってしまう気持ちは、すごく分かります。私も客側に座ったときはそうでした。ただ、法律の効き方としては差が出る。後日また来られたくないなら、「売りません」と言い切るほうが強いです。
ただし、この条文には罰則がありません
正確に書いておきます。第58条の6には罰則の規定がありません。 違反した場合は、主務大臣による指示(第58条の12)や業務停止命令(第58条の13)といった行政処分の対象になります。
なので、その場で「これは犯罪ですよ」と言うための条文ではないです。効くのは、後で行政に伝えたときのほう。義務の条と罰則の条は別なので、ここは混ぜないほうがいいと思います。
呼んだのが自分でも、守りは消えません
「自分で呼んだんだから、話くらい聞かないと」と思ってしまう人は多いはずです。私もそうでした。
まず、第58条の6第1項が、勧誘の要請をしていない人に対して営業所以外の場所で勧誘することを禁止しています。そして通達が「相手方が購入業者に単に査定のみを依頼した場合は、『勧誘の要請』があったとはいえない」としている。査定を頼んだことは、勧誘してくれと頼んだことにはならないわけです。業者のほうから電話してきて「伺ってもいいですか」と取り付けた場合も、要請にはならないと書かれています。
この記事で足しておきたいのは、もうひとつ別の入口のほうです。第58条の17第2項1号に、その住居において売買契約の申込みや締結を**「請求した者」**に対する訪問購入は、書面交付やクーリング・オフの規定から外れる、という適用除外があります。玄関先で「あなたが呼んだんですよね」と言われるとしたら、根拠になり得るのはたぶんここです。
ただ、この「請求」のハードルは低くありません。通達は「見積りをしてほしいので来訪されたい」を請求に当たらない例として挙げています。請求に当たるとされているのは「いくらでも良いので買い取ってほしい」のような、明確に売る意思がある場合のほうです。この適用除外の中身はクーリング・オフの説明がない買取業者に、品物を渡してはいけないに詳しく書きました。
だから、「あなたが呼んだんですよね」と言われても、それで守りが消えるわけではないです。
威迫して困惑させるほうには、罰則があります
粘りが度を越した場合のために、罰則付きの条文も置いておきます。
第58条の10第3項が、契約を締結させるため、または申込みの撤回・解除を妨げるために人を威迫して困惑させることを禁止していて、同条第5項が物品の引渡しを受けるための威迫困惑を禁止しています。罰則は第70条第1号の3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)で、法人には第74条第2号の両罰規定により1億円以下の罰金刑です。
ただ、これは「粘られたら即これに当たる」という話ではありません。威迫して困惑させたと言えるかどうかは、実際の状況をどう見るかで決まります。私はその場にいる誰かの行為を「これは第58条の10です」と判定できる立場にないので、そこは断定しません。書けるのは、そういう条文が罰則付きで存在している、というところまでです。
特定商取引法の外側に、もう1本あります
ここが、この記事でいちばん書いておきたかったところかもしれません。
「帰らない」という行為そのものを名指ししている条文は、実は特定商取引法ではなく刑法のほうにあります。第130条です。
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
後半の「要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者」の部分が、いわゆる不退去罪です。出て行ってくださいと言われたのに出て行かない、というのが要件になっている。買取に限った条文ではないので、訪問購入の適用除外品目かどうかも関係ありません。
そして、この後段はずいぶん昔からあります。刑法が公布された明治40年(1907年)の官報に載っている原文が、すでにこうなっていました。
第百三十條 故ナク人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若クハ艦船ニ侵入シ又ハ要求ヲ受ケテ其場所ヨリ退去セサル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
公布が明治40年4月24日で、施行はそこから1年半ほどあとの明治41年10月1日です(施行の日を決めたのは刑法本体ではなく明治41年勅令第163号のほう)。いずれにしても、22年前の私にも、これはあったということになります。
条文の文言のほうは、2004年当時は「三年以下の懲役又は十万円以下の罰金」でした。その後、懲役と禁錮を拘禁刑に一本化する改正(令和4年法律第67号)が2025年6月1日に施行されたので、いまは「三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金」になっています。中身が変わったというより、刑の種類の呼び方が変わったということです。
正直に書いておくと、当時の私はこの条文を知りませんでした。知っていたら結果が変わったかというと、それも分かりません。ただ、「帰ってください」と口に出して言ったかどうかで、話は変わっていたはずです。条文が「要求を受けたにもかかわらず」と書いている以上、要求したという事実がまず要るからです。
ひとつ、確かめきれていないことがあります
条文が挙げているのは「人の住居」「人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船」です。私の1件は自宅の前でのやり取りでした。門や塀の内側、駐車スペースといった敷地部分がここにどこまで含まれるのかは、条文の文言だけでは決まらず、解釈の問題になります。
そこは私が確かめきれていないので、断定はしません。 家の中や玄関の中まで入ってきている場合の話と、公道に立っている相手の話は、同じではないだろう、というところまでにしておきます。
じゃあ、その場でどうするか
使う順番にしておきます。玄関先で思い出せるのは、たぶん3つくらいなので。
まず、「売りません」と言い切る。「今日は忙しい」ではなく。これで第58条の6第3項が働く形になります。
次に、「お引き取りください」と口に出す。これは第58条の6とは別の話で、刑法第130条後段が「要求を受けたにもかかわらず」と書いているからです。心の中で思っているだけでは、要求したことになりません。
それでも動かないなら、警察に相談する。緊急でない相談は警察相談専用電話の#9110で、悪質商法に関する相談も受け付けているとされています。危険を感じる状況なら110番です。第三者が入ることで場が終わるというのは、22年前に私が実際に経験したことでもあります。あのときは近所のおじさんでしたけど。
そして、その日は品物を渡さない。第58条の15で、引渡しの期日の定めがあるときでも引渡しを拒めることになっていて、しかも強行規定です。業者にはそれを告げる義務まであります(第58条の9)。ここはクーリング・オフの説明がない買取業者に、品物を渡してはいけないのほうに詳しく書きました。
終わったあとに、言う先があります
その場が終わったら、そこで終わりにしなくていいです。
- 消費者ホットライン 188(いやや)。最寄りの消費生活センター等につながります
- 消費者庁の情報提供フォーム:特定商取引法違反行為の情報提供
さっき書いたとおり、第58条の6には罰則がありません。効き目が出るのは指示や業務停止命令といった行政処分のほうで、その材料になるのは伝えられた事実です。だから「もう帰ってもらえたからいいや」で終わらせると、条文のほうは何も動かない。
相談件数のデータは国民生活センターが公表していて、訪問購入は2023年度が8,623件、2024年度が7,909件、2025年度が7,523件です。2026年度は5月末までで826件(前年同期823件)。いずれも2026年5月31日現在の数字で、消費生活センター等からの経由相談は含まれていません。 2026年度は年度の途中なので、前の年度と並べて「減った」と読める数字ではありません。年度ごとの表はクーリング・オフの記事のほうにまとめました。
7,000件台のまま減りきっていないのは、たぶん言われていない分がまだあるからだと思っています。
感じる必要のある申し訳なさは、ゼロです
もう一度だけ書いておくと、これは業者を叩く記事ではないです。私は買う側にもいたので、あの人たちが何を背負って玄関に立っているかは分かります。成約率も歩合も、本人にとっては切実な話です。
ただ、それはこっちの事情ではない。断ったあとに粘られたとき、こっちが感じる必要のある申し訳なさは、ゼロです。22年前の私にいちばん足りていなかったのは、条文の知識よりたぶんそこでした。
出張買取で「これは言っておけばよかった」という一言、ありますか?
この記事で参照した一次資料
- 特定商取引に関する法律(e-Gov法令検索) ── 第58条の4、第58条の6、第58条の9、第58条の10、第58条の12、第58条の13、第58条の15、第58条の17、第70条、第74条
- 刑法(e-Gov法令検索) ── 第130条(住居侵入等)の現行条文
- 官報 第7142号(明治40年4月24日)/国立国会図書館デジタルコレクション ── 法律第45号(刑法)の公布。第130条の制定当時の文言
- 官報 第7501号(明治41年6月29日)/国立国会図書館デジタルコレクション ── 勅令第163号「刑法ハ明治四十一年十月一日ヨリ之ヲ施行ス」
- 刑法の一部を改正する法律(平成7年法律第91号・衆議院 制定法律本文) ── 2004年当時の第130条の文言(三年以下の懲役又は十万円以下の罰金)
- (別添3)特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針 ── 再勧誘禁止規定に関する指針 ──
- 特定商取引に関する法律等の施行について(令和6年11月19日付け通達・消費者庁/経済産業省)
- 特定商取引法の改正履歴(消費者庁・特定商取引法ガイド) ── 平成24年改正で訪問購入が追加された経緯
- ご意見、各種相談・情報提供等(警察庁) ── 警察相談専用電話 #9110
- 訪問購入(国民生活センター) ── 相談件数
更新履歴
- 公開。再勧誘の禁止・不招請勧誘の禁止・威迫困惑の禁止と各罰則の条番号は特定商取引法をe-Gov法令検索の原文で、再勧誘禁止の及ぶ範囲と「査定のみの依頼」の扱いは消費者庁・経済産業省の通達および別添3で、不退去罪は刑法第130条をe-Gov法令検索の原文で確認して書いた。約22年前の1件については、訪問購入が特定商取引法に加わったのが平成24年改正・平成25年2月の施行であることを確認したうえで、当時使えなかった条文と当時もあった条文を分けて書いている
- 公開後の見直しで4点を直した。①「明治40年の刑法制定当時からあります」の裏を取り、国立国会図書館デジタルコレクションの官報第7142号(明治40年4月24日・法律第45号)の原本画像で第130条の制定当時の文言を確認して逐語で載せた。あわせて公布(明治40年4月24日)と施行(明治41年10月1日・明治41年勅令第163号)を分けて書いた。「制定当時」という言い方は公布と施行のどちらを指すか曖昧なため使うのをやめた ②「当時の法定刑は三年以下の懲役」と書いていたが、2004年当時の第130条は「三年以下の懲役又は十万円以下の罰金」で罰金が落ちていた。平成7年法律第91号の制定法律本文で文言を確認し、1995年から2004年のあいだに第130条の改正が無いことを日本法令索引の被改正法令から確認したうえで、罰金を補って書き直した ③国民生活センターの相談件数を年度ごとの実数に改め、集計基準(2026年5月31日現在・消費生活センター等からの経由相談を含まない)と、2026年度が年度途中である旨を併記した ④22年前の1件の金額推移と、業者側の事情・説得の型・1回目の提示額の決まり方は、いずれも即決の記事に同じ内容が書いてあったので圧縮してリンクで委譲し、この記事は不退去罪・断り方の対比・第58条の17第2項1号・相談窓口に絞った。あわせて「手札1/2/3」の連番見出しと「最後に」を中身を名乗る見出しに改めた(本文から割合の記述が無くなったため、experienceNote の該当文も削除)
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